太い血管の合併症は『えのき』

『しめじ』と『えのき』

糖尿病3大合併症『し・め・じ』は、高血糖によって細い血管が傷つくことで発症します(細小血管症)。しかし、高血糖の影響は細い血管だけでなく、太い血管にも動脈硬化というかたちで現れます。これを大血管症といいます。大きく三つに分類され、それぞれの頭文字をとって『え・の・き』と覚えます。

 

 :壊疽(えそ)

 の:脳血管障害(脳梗塞)

 :狭心症・心筋梗塞(冠動脈疾患)

 

動脈硬化は、血管の壁が硬く変化して血液が流れにくくなる病気です。

 

血液の流れが悪くなると、その先に酸素や栄養が届かずに細胞が壊死してしまいます。

 

日本人の死因の第2位は心筋梗塞、第4位は脳梗塞ですが、これらは動脈硬化によって(心臓の冠動脈がつまる)(脳の血管がつまる)ことで発症します。また糖尿病の合併症である足壊疽も動脈硬化が関係しています。

 

動脈硬化は、糖尿病の他に、高血圧症脂質異常症喫煙肥満加齢ストレスなどでも進行します。初期には自覚症状がないので放置してしまうことも少なくないですが、ある日突然に死にいたる病気を発症することがあります。

 

『えのき』シリーズではブログ4回に分けてお伝えしていきます。今日は①『え』壊疽についてです。

 

『え』壊疽(足壊疽)

以前ブログで書いた(診察室内で親指がとれてしまった足壊疽の患者さん)は、悪臭に我慢できなくなって病院を受診されたと記憶しています。壊疽は、皮下組織、筋肉などの組織が壊死に陥り黒色や黄色に変化した状態で、悪臭を放ちます。足壊疽は足切断の原因となり、また敗血症という命に関わる病気も引き起こします。

 

足壊疽の原因は足の血管の動脈硬化と糖尿病神経障害です。

 

足の動脈硬化を、末梢動脈性疾患(PAD : peripheral arterial disease)といいます。

 

足に傷ができると普通は痛みがあるので気がつきますが、糖尿病神経障害の方では気づかずに放置されます。PADがあると血流が悪くなっているせいで細胞に酸素や栄養が届きにくく傷が悪化していきます。また、血糖値が高いと免疫力が低下し細菌に対する抵抗力が落ちてしまうことも傷が悪化する原因です。

 

傷は、皮膚の浅い層(表皮)までのものをびらんといいます。びらんが悪化して傷が真皮まで及ぶと潰瘍となります。さらに血行障害や重度の感染、神経障害等があると組織が壊死し黒色や黄色に変化する壊疽となります。

 

PADの検査と治療

PADの典型的な症状は『足の痛み』です。『歩いていると足が痛くなる、少し休むとまた歩けるようになる(間欠性跛行:かんけつせいはこう)』や『安静時にも足が痛む』などです。ただし糖尿病の方やご高齢の方では症状がないこともあります。

 

検査は足関節上腕血圧比(ankle-brachial pressure index:ABI)を行います。手足に4つの血圧計を巻いて、腕と足の血圧の比率で血管のつまり具合をみます。横になった状態で数分で終わります(痛みはありません)。一緒に血管年齢を測定することもできます。当院でも行っています(下の写真がABIです)。

 

そして、さらに必要であれば足趾上腕血圧比(toe brachial pressure index:TBI)や血管エコー、CT、MRIに進みます。

 

PADの治療は、軽症であればプレタール®︎やアンプラーグ®︎、プラビックス®︎などの薬にエビデンスがあります。重症になると、バイパス手術や血管内治療などの血行再建を行います。また、喫煙がPADを悪化させるため禁煙も重要です。

(当院のABI。血管年齢も測れます)

 

 

足を守るために

 

日頃から足をよく観察し清潔を保つことが大切です。風呂場で足をよく見てください。

 

これから暑い季節になりますが靴下を履くことが傷の防止になります。ただ、靴下は通気性がよいウールのもの(夏暑い時はその限りではないです)を選び、清潔を保つことを心がけてください。出血に気づきやすいように白色がいいと思います。

 

あと爪の切り方も重要です。深爪にならないように爪の端はヤスリで削ります。

 

季節違いですが、コタツや湯たんぽ、熱い風呂は低温火傷を起こし足壊疽の原因になることがあります。糖尿病の方は神経障害のせいで熱さに気がつきにくくなります。

 

足の形にあった靴を履くことが大事です。魚の目タコ靴ズレも要注意です。

 

足の傷の治りが悪かったら相談してください。最もしてはいけないことは痛みがないからといって放置することです。どんな小さなことも相談してもらえればと思います。

 

(えのき:6月27日(土)の糖尿病教室でもお話しする予定です)

 

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